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Yoshihiro Yuji

【コーヒー好き必見!】最新論文からわかったコーヒーの効能とは?



一条:

あーカフェインがきれてきたー。もう走れない。


蘭は独り言を言いながらコーヒーを飲もうと、トラックの外に置かれたコーヒーボトルをとりに小走りで向かった。ボトルを手に取り飲もうとすると、階段を降り、フィールドに向かって歩いてくる湯川が目に入った。


一条:

先生、お疲れ様です!


湯川先生:

おっ、一条君、お疲れ様。(右手を軽く上げて応えた


一条:

先生、今日は練習に来るの遅いですね


湯川先生:

うん、今日は社会人アスリートを対象としたドーピング講習会の講師をしてきたからね


一条:

へぇー、先生、ほんと色んな事をされておられるんですね(そういって、一口コーヒーを飲んだ


昔はドーピングだった!?

一条:

あっ、そういえば、カフェインってドーピングなんですか?(コーヒーの入ったボトルをまじまじと見ながら言った


湯川先生:

ちがうよ


湯川はあっさりと答えた。


湯川先生:2004年まではドーピングとして扱われていたけれど、2004年にカフェインはドーピングの対象から外されている。


一条:

あまり効果がないからですか?


湯川先生:

いや、そんなことはない。カフェインはマラソンなどの有酸素運動や瞬発力が問われる無酸素運動両方のパフォーマンスをあげる。スペインの研究チームは女子バレーボール選手を対象にカフェインがパフォーマンスにどう影響を及ぼすのかを実験した。彼らは選手を体重1㎏当たり3㎎のカフェイン入りドリンクを摂取させた群と、カフェイン無しドリンクを摂取させた群とに分けた。そして、ジャンプ力を計測した。すると、28.1cmから29.4cmへとパフォーマンスの向上を認めたんだ(※1)


一条:

う・・・ん、伸びてはいると思うん(の)ですけど、なんだか微妙じゃないですか?


湯川先生:

そうかな。例えとしては極端だけど、変化の割合だけで計算すると100m走を12秒で走る人・・・


月城:

11.4秒(いつの間にかやってきた萌絵が答えた。少し息が弾んでいた


湯川先生:

そう正解。


一条:

えっ、何、何、お二人の間で何が起こったんですか(二人の顔を交互に見た


湯川先生:

ジャンプ力が28.1㎝から29.4㎝へのパフォーマンス向上の変化割合を単純に100m走を12秒で走る人にあてはめるといくつになると思うって質問しようと思ったんだよ。月城君は計算が早いね。(そう言いながら右手で顎をさすった)君は何桁同士の掛け算なら暗算でできるんだい?


月城:

えっと、少し時間はかかりますが4、5桁くらいなら


そういって萌絵はペットボトルに入った水をおいしそうに飲んだ。どうやら、彼女も喉が渇いて水分を摂りにきたようだ。二人とも以前、湯川から水の重要性を指摘されてからこまめに飲むようにしている。


一条:

えっ、もえちゃん、5桁の暗算できるの?足し算じゃないんだよ。掛け算だよ。

5桁×5桁って、いくつの数値が並ぶのか知ってる?それを頭の中だけで・・・

あ・・・もう、なんだか二人とも、進化の過程が私と違う・・・


カフェインが効き始めるまでの時間は?

月城:

先生、カフェインって飲むとすぐに効くんですか?(蘭の言葉を聞いて苦笑いしながら尋ねた


湯川先生:

カフェインは飲み始めて15分程で血液の中の濃度が高くなる。そして60分程で血液の濃度が最高に達する。だから、短時間スポーツであれば60分位前には摂取しておきたいね(※2)


一条:

私の場合、種目が100m走だから60分くらい前には摂取した方がいいですね(自分に言い聞かせるように言った


月城:

普段、服用する際はいつごろ飲めばいいのですか?


湯川先生:

コルチゾールって聞いたことあるかい?


月城:

たしか、副腎皮質からでる糖質コルチコイドの一つですよね


一条:

もえちゃん、すごい!糖質コルチコイドは授業で習ったけど、コルチゾールっていう言葉は始めて聞いた。私が授業をちゃんと聞いてなかっただけかもしれないけど・・・。


湯川先生:

たぶん、高校生物では習わないんじゃないかな、コルチゾールはストレス耐性ホルモンと言われていて、肝臓で糖質を作ったり、脂肪の燃焼を促したりするんだけど、そのコルチゾールは朝に増える。そして、カフェインはそのコルチゾール分泌を助長し、血液中のコルチゾールレベルがかなり高くなるんだよ。(湯川は手のひらを下にして腕を高く持ち上げて表現した


月城:

それはだめなんですか?


湯川先生:

増えすぎると、自然な分泌を抑えてしまうんだよ(うなづきながら答えた


月城:

あっ、ネガティブフィードバック!(思い出したように言った


湯川先生:

そうだね、そのメカニズムが働くから、朝コルチゾールが高まっているときにカフェイン入りのコーヒーはよくないと言われていた。ただ、最近の研究ではカフェインは耐性が短期間で形成される物質だから、普段カフェインを飲まない人が飲むと、数日間はコルチゾールの分泌量が増えるけれども、次第に元に戻っていくと考えられるようになってきているんだよ(※3)


カフェインで集中力はアップする?

月城:

先生、カフェインって勉強面に効果あるん(の)ですか?

以前、あまり眠れなくて朝眠くてカフェイン入りのコーヒーを飲んだんですけど・・・

あんまり効果を感じなかったので・・・


一条:

ほんと?私なんか凄く効果を感じたけどな・・・・


湯川先生:

なるほど。僕も学生の頃、テスト前とかにはよく飲んでいた。追い込みの時の必需品って感じがするよね。でもね、それは意味がない可能性が指摘されている


一条:

えっ、意味がないんですか(口を半開きにして、今にも泣きそうな表情を作りながら言った


湯川先生:

シンガポールの研究グループが行った実験によると睡眠不足の状態でカフェイン摂取を行った場合、単調な作業における効率を上げることは可能であるが、複雑な作業においては、効率を上げることはできなかったんだ。。(※4)


月城:

そうなんですね。どうりで・・・・


一条:

えっ、私は素直に受けれいれられない・・・・。

う・・・ん、なんだか集中力が上がる気がするんだけどな・・・

コーヒー飲むと食欲も抑えられて、ずっと集中力が続いている感じがするのに・・・


カフェインで痩せるのか?

湯川先生:

食欲が抑えらえる?(怪訝そうな表情を作って反応した


一条:

えっ、何、何、また違うん(の)ですか(また先ほどと同じように泣きそうな表情で応えた


湯川先生:

残念ながら


一条:

ひやぁー(手に持ったタオルで顔を覆いながら言った


湯川先生:

確かにカフェインは交感神経を優位にする作用がある。交感神経が副交感神経より働くようになると消化管の働きはスローダウンする。そうすると食べ物が胃の中に滞在する時間が長くなり、満腹感を得やすくなり、食欲の抑制につながる。と言われている


一条:

なんですか、その嫌味っぽい言い方は(頬を膨らませて言るのが、タオルの上からでもわかる


湯川先生:

にこりとしながら

ニューヨーク州立大学の研究グループはカフェインを体重換算で1-3㎎/dayのカフェインを摂取させたグループとカフェインを摂取しなかったグループの食欲に差が生じるかを調査した。結果、食欲の差はなかったと2018年のJournal of the Academy of Nutrition and Dieteticsに発表している


一条:

もう、じゃあ、集中力もつかないし、やせもしないし、運動の時だけ微妙なパフォーマンス向上するだけじゃないですか(タオルで覆われた口元だけが動く


湯川先生:

いや、それは違う。そんなに悲観することはないよ


一条:

えっ、なんですか、その素敵な発言は!(タオルをとり、目をきらきらとさせながら湯川の方をみていった


湯川先生:

マウスレベルではあるが、2019年に、英国ノッティンガム大学の研究グループがカフェインが脂肪(褐色細胞)の燃焼を促した事を発表している(※5)


一条:

褐色細胞?たしか、脂肪細胞の中でも熱産出をメインに行っている細胞ですよね。

その細胞が活性化するってことは、食べたものがエネルギーに使われて、太りにくくなるってことですよね


湯川先生:

そうだね、おおむねそんな感じかな


一条:

なんて素敵な研究。さすが紳士の国は違うわ。


どうやら蘭の機嫌は治ったようだと萌絵は思った。


湯川先生:

その他にもコーヒー摂取は肝臓癌、子宮体癌、乳癌、咽頭癌などにも効果があるとされる文献がちらほら散見される(※6※7) あとは、コロナにも


一条:

えっ、コロナにも!?(驚いたように言った


湯川先生:

うん、米国のノースウェスタン大学の研究チームはコロナの感染リスクとコーヒーの関係性を調べた。すると、コーヒーを1杯以上飲む人はそうでない人よりもコロナの感染が10%も低いことが示唆されたんだ。(※8)


一条:

10%は大きいですね。でも、なんだか・・・それって本当なの?って思っちゃいます


湯川先生:

一条君、そのスタンスは素敵だよ(一条の目をまっすぐ見て力強い声で言った


一条:

え、えっ、素敵なんですか?


湯川先生:

そう。あくまでもこれはデーターから読み取っただけであって、コーヒーの何がコロナに対して効果があったのかはわかっていない。それがわかるまではコーヒーそのものに必ずしも効果があるとは言えない


月城:

なるほど。でも、現状においてはマイナスであるとは考えにくいから、やはり飲んだ方がいいのでしょうか


湯川先生:

飲みたいなら飲んだらいいという程度かな。


1日カップ何杯までがベスト?

一条:

私は飲みたい。少しでも可能性があるのなら、ガンガン飲みます


湯川先生:

それはよくないかもね。


一条:

えっ、どうしてですか。(また悲しげな表情と声を出す


湯川先生:

日本の国立がん研究センターが中心となって行った研究によると、1日5杯未満までのコーヒー摂取は脳や心臓、呼吸器の病気のリスクが低くなるが、5杯以上は心臓の病気のリスクを増大させてしまうという事が示唆されている(※9)


一条:

えっ、病気のリスクが増えるん(の)ですか・・・


湯川先生:

そう、何事もほどほどにしないといけないんじゃないかな。


一条:

そうですね・・・(そう言って、コーヒーが入ったペットボトルの蓋を左方向に回した)



まとめ

​有酸素運動、無酸素運動ともパフォーマンスを上げる

睡眠不足でコーヒーを飲んでも集中力は上がらない

食欲は抑えられないけれども脂肪燃焼は促す可能性あり

肝臓がん、子宮体がん、乳がん、咽頭がん等への効果も指摘

飲む量は1日カップ5杯まで

摂取60分後が効能のピーク



 

【 登場人物紹介 】 

湯川先生:

精神科医、内科医。都内某所で開業。陸上部OB。医療、食事、運動、モチベーションに精通。

今年度から母校陸上部のコーチとして招聘。


月城萌絵(つきしろもえ): 

都内随一の進学校、東都大学付属高等学校に通う高校2年生。 父、母ともに帝都大学を卒業。父は医師で湯川の上司でもある。

学業は非常に優秀。内向的な性格。一条に対してだけ心を開いている。 容姿端麗で近づいてくる男子は多いが見向きもしない。あだ名は「東都の鏡」。


一条蘭(いちじょうらん): 

月城と同じ東都大学付属高等学校に通う高校2年生。

父は外務省勤務のキャリア官僚。 スポーツ万能。正義感が強く、誰に対しても物怖じしない。

敬語を使うのは非常に苦手。衝動的に動いてしまうこともちらほら。

将来の夢は外交官もしくは弁護士。あだ名は「東都の掟」。




 

【参考論文】

※1

Alberto Pérez-López 1, Juan José Salinero, Javier Abian-Vicen, David Valadés, Beatriz Lara, Cesar Hernandez, Francisco Areces, Cristina González, Juan Del Coso,Caffeinated energy drinks improve volleyball performance in elite female players,Med Sci Sports Exerc. 2015 Apr;47(4):850-6.



※2

TE Graham , E Hibbert, P Sathasivam,Metabolic and exercise endurance effects of coffee and caffeine ingestion,J Appl Physiol (1985). 1998 Sep;85(3):883-9.


※3

William R. Lovallo,, Thomas L. Whitsett, Mustafa al'Absi, Bong Hee Sung, Andrea S. Vincent, and Michael F. Wilson, Caffeine Stimulation of Cortisol Secretion Across the Waking Hours in Relation to Caffeine Intake LevelsPsychosom Med. 2005; 67(5): 734–739.



※4

Stepan, M. E., Altmann, E. M., & Fenn, K. M. (2021). Caffeine selectively mitigates cognitive deficits caused by sleep deprivation. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 47(9), 1371–1382.


※5

Ksenija Velickovic ,Declan Wayne ,Hilda Anaid Lugo Leija ,Ian Bloor ,David E Morris ,James Law ,Helen Budge ,Harold Sacks ,Michael E Symonds ,Virginie Sottile,Caffeine exposure induces browning features in adipose tissue in vitro and in vivo,Sci Rep. 2019Jun24;9(1):9104


※6

Manami Inoue 1, Itsuro Yoshimi, Tomotaka Sobue, Shoichiro Tsugane, JPHC Study Group,Influence of coffee drinking on subsequent risk of hepatocellular carcinoma: a prospective study in Japan. J Natl Cancer Inst. 2005 Feb 16;97(4):293-300.


※7

Jingmei Li 1, Petra Seibold, Jenny Chang-Claude, Dieter Flesch-Janys, Jianjun Liu, Kamila Czene, Keith Humphreys, Per Hall,Coffee consumption modifies risk of estrogen-receptor negative breast cancer ,Breast Cancer Res. 2011 May 14;13(3):R49


※8

Thanh-Huyen T Vu , Kelsey J Rydland , Chad J Achenbach , Linda Van Horn , Marilyn C Cornelis,Dietary Behaviors and Incident COVID-19 in the UK Biobank,Nutrients. 2021 Jun 20;13(6):2114.


※9

Sarah Krull Abe, Eiko Saito, Norie Sawada, Shoichiro Tsugane, Hidemi Ito, Yingsong Lin, Akiko Tamakoshi, Junya Sado, Yuri Kitamura, Yumi Sugawara, Ichiro Tsuji, Chisato Nagata, Atsuko Sadakane, Taichi Shimazu, Tetsuya Mizoue, Keitaro Matsuo, Mariko Naito, Keitaro Tanaka, Manami Inoue, Coffee consumption and mortality in Japanese men and women: A pooled analysis of eight population-based cohort studies in Japan,Preventive medicine. 2019 06;123;270-277.


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