(腸内美人への近道。○○を摂るのが効果的!の続き)
一条:
先生、プレバイオティクス、プロバイオティクス以外に何か腸内細菌を劇的に変える方法はないんですか?
湯川先生:
う・・・ん、そうだね・・・、最近の流行りでいうと、プレ/プロを一緒にしたシンバイオティクスというものあるけど・・・劇的にと言われるとね・・・あっ、移植なんかどうかな?
月城:
えっ、移植?腸を移植するんですか?
湯川先生:
いや、便を。
(あっけらかんとした表情で答えた)
月城・一条:
いやだ~。
(二人は声を揃えて叫んだ。近くの人が数人こちらの方を見た)
湯川先生:
(湯川は二人の反応に構わず続けた)
2017年、中国の南京大学の研究グループが行った「慢性便秘症に苦しんでいる人の便の細菌叢を無菌状態のマウスに移植したらどうなるのか」の実験結果がサイエンティフィック・レポートに掲載された。(※2)
月城・一条:
まさか・・・。
湯川先生:
そう、マウスは便秘になった。消化管の蠕動運動が低下していたんだ。つまり、腸内細菌が便秘を引き起こしたと考えられる。もしも原因となる腸内細菌が同定できれば、その腸内細菌の増殖を抑えることで、便秘を予防、改善する事ができることが期待されている。
(月城、一条の二人ともあまり興味がある表情をしていなかったが、湯川は話を続けた)
湯川先生:
他にも、抗菌剤併用便移植療法(A-FMT)と言って腸内環境が悪化した患者に対して、抗生剤を投与して、既存の腸内細菌を死滅させ、一旦リセットしたのち、腸管内に内視鏡を挿入して細菌を散布して良好な腸内環境になるようにするという方法も、まだ研究段階だけど行われている。(※3)
月城:
なんだかすごく荒療治に聞こえるのですけど、その方法が発展していくと、なんだか色んな事に応用が効きそうですね。
湯川先生:
うん、そうだね。腸は人体の最大臓器だからね。知れば知るほど奥が深い。
他にも身近なところでいうと、にきびも腸内環境が深く関与している。このメカニズムも次第にわかってきたところだね。
一条:
えっ、ニキビも。
(先ほどとは違い、二人とも興味津々といった表情に一変した)
湯川先生:
うん、にきびは乾燥肌になると生じやすくなる。肌の角化状態を悪化させ、水分含有を減少させる物質の一つに腸内細菌により産出されるパラクレゾールといわれる物質がある。
一条:
なんだか、箪笥の中に置いてありそうな名前ですね。
湯川先生:
株式会社ヤクルトの研究グループは、このパラクレゾールの産出がプロ-/プレ-バイオティクの摂取により抑えられることを発表したんだ。(※4)
(今日の湯川は一条の冗談にあまり反応がしないなと月城は思った。朝が早くて眠いのだろうかと想像した。)
一条:
プロ・プレ、お肌にもいいんですね。なら、高いけど、毎日たくさん飲みます。
湯川先生:
それはよろしくない。
(抑揚のない声で言った)
一条:
えっ、なんでですか?
湯川先生:
腸内細菌の摂りすぎは特段問題ないけど、腸内細菌を含んでいる食品には結構カロリーがある事も多いからその点だけは注意しないといけない。
一条:
なるほど、そういうことですね。大丈夫です。先生、今どきの女子高生はちゃんとカロリーをみて購入しています。人工甘味料で甘さを加えつつ、ノンカロリーでおいしく、腸活です。
湯川先生:
一条君、世の中はそんなに甘くない。
2022年にイスラエルが人工甘味料が腸内細菌に影響を与える影響を調べた。その結果、特定の腸内細菌が増殖し、それと共に血糖をコントロールする力が衰えるという研究結果がアメリカの学術誌『cell』に発表されている。(※5)
一条:
えっ、人工甘味料って太らなくて、体に無害じゃないんですか?
湯川先生:
少量ならそうだろうけど、やはり飲みすぎると悪い影響は出るかもしれないね。
なんでも程々にだよ。
一条・月城:
(はーいと言いながら、彼女たちに会場の前に到着したため、席取りのために小走りで会場内に向かって行った)
【 登場人物紹介 】
湯川先生:
精神科医、内科医。都内某所で開業。陸上部OB。医療、食事、運動、モチベーションに精通。
今年度から母校陸上部のコーチとして招聘。
月城萌絵(つきしろもえ):
都内随一の進学校、東都大学付属高等学校に通う高校2年生。 父、母ともに帝都大学を卒業。父は医師で湯川の上司でもある。
学業は非常に優秀。内向的な性格。一条に対してだけ心を開いている。 容姿端麗で近づいてくる男子は多いが見向きもしない。あだ名は「東都の鏡」。
一条蘭(いちじょうらん):
月城と同じ東都大学付属高等学校に通う高校2年生。
父は外務省勤務のキャリア官僚。 スポーツ万能。正義感が強く、誰に対しても物怖じしない。
敬語を使うのは非常に苦手。衝動的に動いてしまうこともちらほら。
将来の夢は外交官もしくは弁護士。あだ名は「東都の掟」。
【参考論文】
※2
Potential role of fecal microbiota from patients with slow transit constipation in the regulation of gastrointestinal motility
Xiaolong Ge 1, Wei Zhao 2, Chao Ding 1, Hongliang Tian 1, Lizhi Xu 3, Hongkan Wang 4, Ling Ni 1, Jun Jiang 1, Jianfeng Gong 5, Weiming Zhu 6, Minsheng Zhu 7, Ning Li 8 9
※3
参照URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/33/5/33_1121/_pdf/-char/ja
※4
参照URL:https://bifidus-fund.jp/meeting/pdf/15th/sympo2_4.pdf
※5
JothamSuez,YotamCohen,Rafae,Valdés-Mas,UriaMor,MallyDori-Bachash,SaraFederici,NivZmora,AvnerLeshem,MelinaHeinemann,RaquelLinevsky,MayaZur,RotemBen-Zeev,Brik,AurelieBukimer,ShimritEliyahu-Miller,AlonaMetz1RuthyFischbein,OlgaSharov,SergeyMalitsky,EranElinav,et al.Personalized microbiome-driven effects of non-nutritive sweeteners on human glucose tolerance,cell,Volume 185, Issue 18, 1 September 2022, Pages 3307-3328.e19
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