【 登場人物 】
湯川先生:
精神科医、内科医。都内某所で開業。陸上部OB。医療、食事、運動、モチベーションに精通。
今年度から母校陸上部のコーチとして招聘。
月城萌絵(つきしろもえ):
都内随一の進学校、東都大学付属高等学校に通う高校2年生。 父、母ともに帝都大学を卒業。父は医師で湯川の上司でもある。
学業は非常に優秀。内向的な性格。一条に対してだけ心を開いている。 容姿端麗で近づいてくる男子は多いが見向きもしない。あだ名は「東都の鏡」。
一条蘭(いちじょうらん):
月城と同じ東都大学付属高等学校に通う高校2年生。
父は外務省勤務のキャリア官僚。 スポーツ万能。正義感が強く、誰に対しても物怖じしない。
敬語を使うのは非常に苦手。衝動的に動いてしまうこともちらほら。
将来の夢は外交官もしくは弁護士。あだ名は「東都の掟」。

一条:
先生、萌絵ちゃんと私、今度数学オリンピックの予選に出場するんですよ。
萌絵ちゃんは絶対に本選にいけるだろうけど、私はきっと予選落ち。記念受験、記念受験! (陸上部の練習指導の前にストレッチをしている湯川に向かって、嬉しそうに言った)
月城:
そんなことないわよ。蘭ちゃんの方が、ずっと数学が得意だし、私数学はあまり得意じゃないから
湯川先生:
月城さんにも不得意な科目があるんだね。そもそも何で数学オリンピックに出場しようと思ったんだい?(前後開脚しながら尋ねた)
月城:
私、テスト前になると、便秘気味になってしまって、お腹が張ってテストに集中できないことがあるんです。だから受験前に経験を積んでおこうかなと思いまして
一条:
げろげろ。萌絵ちゃん、あれだけ成績が良いのに、そんなハンデを背負って戦っていたなんて・・・。あー、でも私も普段から便秘気味。生理前は特に便秘になっちゃう。たまに家にある便秘薬を飲んだりするとスッキリするけど、薬を飲み続けるのって何か怖いし。便秘が酷くなった時にだけ使うようにしてる。便秘ってほんとうに嫌。体も重くなるし、肌も荒れたりするし、お腹が張ったようになるし・・・。先生、これって何とかならないんですか。毎日、すっきりポンって・・・
湯川先生:
僕はドラえもんじゃないから、そんなに簡単にはいかないかなぁ。
でも、ある程度改善する方法ならあるよ(そう言ってストレッチを中断した)
一条:
えっ、何、何?あっ、何ですか?教えて下さい
(合掌のポーズをとりながら、仰々しくお頭を下げる)
そもそも便秘ってどういう状態?
湯川先生:
(湯川は軽くうなづきながら)そもそも二人は、便秘の定義は何だと思う?
一条
えっ、便秘の定義?便秘にも定義というのがあるんですね
え・・・っと、便が出にくくなること・・・
湯川先生:
月城さんは?どう思う?
月城:
私、便秘の定義なんて考えた事ありませんでした。え・・・っと、、2、3日便が全く出ないことでしょうか・・・(うつむき加減に発言する)
湯川先生:
なるほど。二人とも当たらずしも遠からずだね。例えば日本内科学会は3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態として便秘を定義している。一方で、日本消化器病学会関連研究会が作成した慢性便秘症診療ガイドライン2017によると、「本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」として定義されている
月城:
なんか今一ピンと来ないんですけど、統一されてないんですね
湯川先生:
そうだね。完全には一致していないね(そう言いながら、湯川は近くに置いてあったカバンからタブレット端末を取り出した)
それにね、ひと口に便秘っと言っても実は便秘にも種類があるんだよ
月城:
え!便秘に種類なんてあるんですか!?
湯川先生:
あるよ。便秘の種類は大きく分けると器質性と機能性の二つに分けられる。この二つがどういったものなのか、少し大雑把な説明になってしまうけれど、器質性というのは例えば大腸がんが腸管の中で成長し、便の通り道が狭くなり排出が困難になるなど、物理的な障害が生じていることを言う。(取り出したタブレットに絵を描いて説明する)
一方で機能性というのは、腸の管自体は何も問題がなく、内視鏡でお尻の穴からくまなく除いても特に何も異常は見当たらない
一条:
えっ、何もないのに便秘になっちゃうの?
湯川先生:
そう、腸管の物理的構造にはね。この腸管には特に何も問題がないのに便秘になってしまう機能性便秘というものは、さらに3つに分られるんだよ
① なかなか先に進まない!大腸通過遅延型
湯川先生:
一つずつ簡単に説明していくと、まず腸の動きが悪いことによって、なかなか便が直腸(肛門の手前のお部屋)まで到達せず、便の回数、一回の排泄量が減少してしまうパターン。要は大腸を通過していくのに時間がかかってしまうので、このパターンを大腸通過遅延型という
月城:
どうしてそんなことが起こるんですか?
湯川先生:
この大腸通過遅延型の原因は薬剤などで起こることが多くて、たとえば若い人だと精神科で使うようなお薬や鉄剤などの使用の副作用としてでたりする事が多いかな
一条:
やっぱり薬って、メリットもあるけどデメリットも怖いですね
湯川先生:
そうだね、薬は必要な時に必要最低限にとどめるようにして使わないといけない
② 材料がなければ出るものも出ない!?大腸通過正常型
湯川先生:
次は、腸の動きは問題なく正常なのに、便の回数、一回量が減少してしまうパターン。これはそもそも便となる材料が不足しているから起こる。つまり食べる量が少なかったり、食物繊維の摂取量が少ないんだね。このパターンを大腸通過正常型と言う。
月城:
極論、そもそも出すものがないっていう事ですね
湯川先生:
う~ん、まぁ、そうとも言えるね
③ 押し出す力が足りないよ!!機能性便排出障害
湯川先生:
最後は便を押し出そうとする力、便が溜まっていることを脳に伝達する力が衰える事により、十分量かつ快適に出すことができなくなった事により生じる機能性便排出障害というのもある。この原因は腹圧の低下や骨盤底筋の協調運動障害などが挙げられる

一条:
色々なパターンがあるんですね。
先生、便秘の成り立ちはなんとなくわかったので、早く解消法を教えて下さい!
ねじり運動で快便!ウエストもほっそり
湯川先生:
そうだね。ではとっておきの解消法を教えようか
一条:
先生!勿体つけないでくださいっ!
湯川先生:
ははは。では質問です。君たちは運動は便秘に良いと思うかい?
一条:
運動って万能そうだから、やはり便秘にもいいのかなと、、、違うんですか?
湯川先生:
ううん、一条さんの言う通り運動は便秘に対して効果的だよ。でも、そのなんとなくが真であるのかはやはり実験してみないとわからない。この点、中国の研究者らが2019年に合計680人が参加する9 つのランダム化比較試験をメタ解析し、有酸素運動が便秘を改善する事を示唆した研究結果がScandinavian Journal of Gastroenterologyに掲載されたんだよ。こういった結果を何度も積み重ねて初めて、やはり運動は便秘に対して効果的だよねと言える(※1)
一条:
メタ解析って何ですか?
湯川先生:
すごくシンプルに言うと、信頼の高い研究だけを集めてきて、それらを統合してさらに解析することをいうんだよ
月城:
陸上の全国大会に似てますね・・・、一流たちがさらにふるいにかけられる・・・
湯川先生:
そうだね、とりあえずはそんなニュアンスの理解でいいと思うよ
一条:
でも中国って考えが遅れているっていうか?なんか信じられないっていうか・・・
湯川先生:
一条さん、その考えは早いうちに修正したほうがいいよ。思想で判断するのではなく、研究結果をしっかりと読み、研究そのものが価値あるのかどうかで判断するようにしないといけない。考えが遅れているっていうけれど、君たちが受験する数学オリンピック、国別順位で中国は圧倒的な一位常連国となっている。君たちには少なくとも、ちゃんとした事実に目を向けるような習慣を身につけていってほしいな。なんだか少し説教じみてしまったけど、要は先入観は事実を曇らせてしまうから気を付けてってことだよ
(二人は言葉なく、ただ小さく頷いた)
湯川先生:
ごめん、ごめん、話をもとに戻すね。運動は便秘にいいとしても、なかなか運動をやろうと思ってもできない事が多い。学生の時は部活や体育の授業などで運動したりするけれど、大人になると満員電車の中、倒れないように踏ん張る位が一日の運動っていう人は大勢いるし、君たち学生も来年になると受験生でなかなか運動をする時間がなくなってしまう
(二人とも首を縦にふる)
一条:
運動って言われても漠然とし過ぎていて逆に何をしていいのかわからないです
湯川先生:
そうだよね。今日はすごく簡単な動きを教えてあげよう。自分の部屋でも勉強の合間に手軽にできる「ねじり運動」
月城:
ねじり運動?
湯川先生:
ねじり運動っていうのは、こうやってやるんだよ
(と言って、湯川は音楽をかけ始めた)
一条:
先生のってますねぇ!!
月城:
え!でもこんな単純な動きで効くんですか?
湯川先生:
(ちょっと照れくさそうに音楽を止めて)
そうだよ。こんな簡単な動きでも効果があるんだよ。
しかも嬉しいことにウエストのシェイプアップにも良い動きなんだ。まぁ君たちにはまだ必要ないかもしれないけどね
一条:
そうなんですね!お母さんにも教えてあげよう!!
(後編に続く)
コメント